<子犬の発育段階とは>
子犬の社会化期を知るためには、子犬がどのような発育段階をたどって成長していくかを理解する必要があります。
子犬は、以下のような発育段階をたどって成長していきます。
出生前期 | -63日齢 ~ 生後0日齢 | |
新生子期 | 生後0日齢 ~ 生後12日齢前後 | |
移行期 | 生後12日齢前後 ~ 生後21日齢 | |
社会化期 | 生後3週齢 ~ 生後12週齢 | |
第一社会化期 | 生後3週齢 ~ 生後5週齢 | |
第二社会化期 | 生後6週齢 ~ 生後12週齢 | |
若齢期 | 生後12週齢 ~ 性成熟(生後6 ~ 9ヶ月齢) | |
反抗期 | 生後6ヶ月齢 ~ 生後8ヶ月齢 | |
社会的成熟期 | 性成熟(生後6 ~ 9ヶ月齢) ~ 生涯 |
出生前期、新生子期、社会化期(生後8週齢ころまで)は、親兄弟(姉妹)と一緒に生活を行うことが、子犬の心身共に健全な成長の為にはどうしても必要なことです。
生後1ヶ月~生後1ヶ月半くらいで、親兄弟(姉妹)から引き離された子犬は、犬社会をほとんど学習していないため、犬のコミュニケーション法、他の犬との遊び方、咬みつき抑制を全く理解しておりません。
成熟後に、他の犬や人間に対して恐怖心を抱いたり、攻撃性が増したり、誤飲・誤食をする可能性が高くなることが分かっております。
※このことを「異嗜(いし)と言います」
「異嗜」のある子犬は、心の安定を促す神経伝達物質が少なくなっていることが分かっておりますので、親兄弟(姉妹)との係わりがとても重要なことが分かります。
<出生前期>
出生前期とは、-63日齢~生後0日齢の時期のことです。
一般的に、犬の妊娠期間は、63日程度と言われておりますので、「出生前期」=「妊娠してから産まれてくるまで」と言い換えることができます。
母犬のストレスは、”出生前期の子犬にも影響を与える”ことが分かっておりますので、以下のような点に注意して母犬の生活環境を整えてあげましょう。
- 母犬が落ち着ける環境かどうか
- 衛生面に問題がないかどうか
- 母犬が子犬を育てるのに十分な栄養を摂取しているかどうか
- 母犬の健康状態は良好かどうか
- 飼い主(ブリーダー)が、母犬に対して定期的に愛撫などを行い、温かく接しているかどうか
ストレスの少ない母犬から産まれた子犬は、「発育が良く」、「不安や攻撃性が少なく」、「学習能力が向上する」こが分かっておりますし、飼い主(ブリーダー)が、母犬に対して定期的に愛撫などを行って、温かく接してあげると、母犬がリラックスすることができ、産まれてくる子犬はより穏やかで人から触られることに対する抵抗が少なくなるそうです。
犬の世界にも、「胎教」は重要なことなんですね。(^O^)
<新生子期>
新生子期とは、生後0日齢~生後12日齢前後の時期のことです。
この時期の子犬は、母乳を飲むことと、眠ることで1日を過ごします。
自分で排泄することができないため、母犬が陰部を舐めて排泄を促します。
既に嗅覚や味覚、反射神経、触覚が発達しており、本能的に嗅覚と触覚を頼りに母犬の乳首を探して、母乳を飲みます。
まだ、目は明いておらず、耳も聞こえない状態です。
自分で体温調節を行うことができませんし、ハイハイでの移動もほんの少ししか行いことができません。
基本的には、母犬が育児を行いますが、もし、母犬が育児を行わなかったり、子犬の数が多く育児しきれない場合には、人の手で助けてあげましょう。(人工飼育)
生後5日齢までの子犬は、何か苦痛を感じると鳴き声で母犬に知らせます。
人工飼育の場合には、この鳴き声を見落とさない(聞き漏らさない)ように注意が必要です。
生後7日齢までの子犬は、死亡率が高く、「1週間の壁」のように表現されています。
兄弟(姉妹)の中でも、弱い子や、体の小さい子は、この「1週間の壁」を突破できるかどうかで、大きな問題となるようです。
生後6日齢~生後10日齢頃になると、前後の足で体を支えることができるようになってきます。
前後の足で体を支えられるようになると、母犬の助けがなくても、自分で母乳を飲みに行くようになります。
穏やかで気質の良い子に育てる為には、この頃から定期的に「ボディータッチ」を行います。
「ボディータッチ」とは、手で愛撫して適度な刺激を与えることです。
この頃の子犬に適度な刺激を与えると、学習能力や運動能力が向上したり、人に対する抵抗が軽減されることが分かっております。
「ボディータッチ」を行った子犬は、比較的目が早く明くなど、生育も速いことが分かっています。
愛情をたくさん注いだ子犬は、良い子に育つのかもしれませんね。(^O^)
<移行期>
移行期とは、生後12日齢~生後21日齢の時期のことです。
子犬が移行期に入ると、運動能力系、神経系、感覚器系が急速に発達します。
生後12日~生後14日ころには目が明きますし、目が明いてから1週間程度で今まで機能していなかった耳も機能するようになります。
目や耳が機能するようになると、光や音などの刺激にも反応するようになります。
この頃から親兄弟(姉妹)と遊ぶようになり、尻尾を振ることで感情を表現するようにもなります。
さらに移行期の後半になると、ひとりで排泄も行えるようになり、離乳食への興味も湧いてきます。
このように、移行期の子犬は、心身共に急速に発達していきます。
新生子期の子犬は、生理的な要求で鳴き声を発して母犬を呼びますが、移行期に入ると心理的に不安になった場合にも鳴き声で母犬を呼ぶようになります。
この時期の経験やさまざまな刺激は、今後の適応力を育む意味でとても重要であることが分かっております。
移行期の子犬は、「あっ!という間」に大きくなっていきますので、日々の成長が楽しみになってくる時期です。
特に、大型犬の子犬の場合には、1週間も会わないと見違えるほど大きくなっており、びっくりさせられるんですよ!(^_^)
<社会化期>
社会化期とは、生後3週齢~生後12週齢の時期のことです。
社会化期の子犬は、母犬からの躾や、兄弟(姉妹)との遊び、他の犬からの躾などにより、犬社会を学習して、犬同士のコミュニケーション法、他の犬との遊び方、咬みつき抑制(遊ぶ際に噛む力をコントロールして、相手を傷つけないようにすること)などを学んでいきます。
そして、この時期に出会った人間や、生活環境からは人間社会を学びますし、この時期に他の動物(猫など)と接すると、その動物との接し方などを学習していきます。
では、もし、社会化期に犬社会を十分学習せずに母犬から引き離されてしまうとどうなるのでしょうか?
最近の研究で、社会化期に十分学習していない子犬は、成熟後に問題行動(他の犬を怖がる、他の犬との遊び方が分からない、吠える、咬み付く(本気咬み)、人間が怖いなど)が増加することが分かってきております。
このように、社会化期は子犬にとって社会全体を学習する為のとても重要な時期なのです。
ペット先進国である欧米では、ほとんどの国でこの子犬の社会化期を重視しております。
生後8週齢を経過しない子犬を母犬から引き離すことを法律で禁止していたり、自主的に生後8週齢を経過してから飼い主への引き渡しを行っております。
日本では、長い間、法律上ペットは単なる物として扱われてきましたが、2012年9月に公布された動物愛護法の改正で生後56日を経過しない子犬を母犬から引き離してはならないことが盛り込まれました(但し、しばらくの間、56日を45日との読み替えが実施され、その後56日を49日への読み替えが実施されます)。
ところで、一般的に社会化期は発育段階の1つとして扱われておりますが、「第一社会化期」と「第二社会化期」のように2つに分割することが出来ます。
<第一社会化期>
第一社会化期とは、生後3週齢~生後5週齢の時期のことで、この時期は安定した感情を養う為の大切な期間です。
第一社会化期のころの子犬は、好奇心が非常に旺盛で、多くのものに関心を示します。
特に初めて見るものに対しては、匂いを嗅いで興味を示すと、舐めてみたり、なんでもくわえてしまいます。
くわえたものに対して、振り回したり、引っ張ってみたり、引きちぎったりして遊びます。
例えば、そっと忍び寄り、襲い掛かる子犬同士の遊びがありますが、これは、攻撃性や捕食行動を養う遊びです。
さらに、床や壁、地面、柱などの匂いを嗅ぎまわり、気になる匂いが見つかると、しばらく嗅いでいることがありますが、この行動は、探索行動と呼ばれております。
または、親兄弟(姉妹)に対して、繰り返し甘噛みをして遊びます。兄弟(姉妹)の場合には、甘噛みを仕返しますが、親犬や先輩犬の場合には、子犬のマズル(犬にとって、マズルは急所です)を加えて子犬が反省と服従の声を上げるまで、しばらく放しません。
このようにして、親犬や先輩犬は子犬に対して、叱りつけ、躾を行います。
※飼い主が子犬を躾ける際にも、手でマズルを抑えることで、親犬が行う躾と同様の効果があります
このように兄弟(姉妹)犬と一緒に遊びながら、犬社会を学んで行き、探索行動や性的行動、攻撃性や捕食行動を養っていきます。
この時期に無理やり親犬から子犬を引き離してしまうと、情緒不安定な性格になってしまいます。
子犬の将来のことを考えると、この時期に親兄弟(姉妹)から引き離すべきではありません。
<第二社会化期>
第二社会化期とは、生後6週齢~生後12週齢の時期のことです。
母犬の性格や行動パターンは、子犬にとってのお手本となり、成熟後に大きく影響を与えます。
この頃は”感受期”と呼ばれており、体験した精神的、または肉体的な苦痛が成熟後にも強く残ります。「トラウマ」に陥りやすいので、注意が必要です。
この時期に、狭いショーケースで展示された子犬は、非常に大きなストレスを受ける為、成熟後に何らかの影響がでる可能性があります。
ペット先進国の欧米で子犬の展示販売が行われていないのは、狭いショーケースでの展示が動物虐待につながると考えられているからです。
また、この時期は子犬を親兄弟(姉妹)から引き離すには、最適な時期でもあります。
生後6週齢を経過すると、母犬は子犬に対して、徐々に乳離れや、親(母)離れを促します。
生後6週齢ころから、徐々に新しい環境へ順応する為の準備をして、乳離れや親(母)離れが完了する生後8週齢を経過したころに、新しい飼い主さんのところへ旅立つ時期を迎えます。
この時期の子犬は、柔軟で吸収力や学習能力が優れておりますので、家庭に迎え入れた子犬には、以下のようなことを徐々に教えてあげてくださいね。
- おトイレのトレーニング
- 咬んでよいものと、駄目なものの区別
- 甘噛み(遊び噛み)の抑制
- 破壊行動の抑制
- 人に対しての飛びつき抑制
- お座り : Sit(シット)
- 伏せ : Down(ダウン)
- 待て : Stay(ステイ) または Wait(ウェイト )
- おいで : Come(カム)
- 爪切り
- 肛門腺絞り など
さらに、将来さまざまな刺激に順応できる子に育てるためには、少しずつ犬が嫌がる刺激にも慣れさせていく必要があります。
混合ワクチンプログラムが完了する前から、「抱っこ散歩」に出かけて人間社会のさまざまな刺激(例えば以下のようなもの)にも徐々に慣れさせてあげてくださいね。
- 車やバイクの音
- 飛行機の音
- 電車や、踏切の音
- 人ごみ
- 飼い主以外の人間
- 他の犬(但し、接触は混合ワクチンプログラム完了後まで禁止)
- 他の動物(但し、接触は混合ワクチンプログラム完了後まで禁止)
- 首輪やリードをつけられること
- ドライヤーの風
- シャンプーや、お風呂
- 水遊び
- クレート(バリケン)での移動
- 車や電車での移動
- 動物病院 など
<若齢期>
若齢期とは、生後12週齢~性成熟(生後6ヶ月齢~生後9ヶ月齢)の時期のことで、飛躍的に運動機能が発達して、興味を示す範囲も拡大していきます。
この時期になると、好奇心よりも徐々に警戒心や恐怖心が上回るようになりますが、まだまだ優れた柔軟性や、吸収力、学習能力が残っていますので、質の高い経験をさせてあげる必要があります。
万が一、社会化期の学習が不十分な場合でも、専門家に相談して再教育することで、まだまだ修正可能です。(但し、専門家の指導の下、飼い主が愛犬と一緒に訓練に参加してあげる必要があります。)
生後6ヶ月齢~生後9ヶ月齢になると、性成熟を迎えます。
女の子(メス)の場合には、生後8ヶ月前後で生理や、初潮があります。
男の子(オス)の場合は、個体差はあるものの、マーキング、警戒吠え、縄張り意識の表れ、メス犬への関心などが強くなっていきます。
<反抗期>
生後6ヶ月齢~生後8ヶ月齢になると、「反抗期」を迎えます。
この頃を迎えると、反抗的な態度をとったり、飼い主が嫌がることをわざと行ってみたり、指示を聞かなくなったりします。
所謂「上への挑戦」がみられるようになります。
「上への挑戦」と言うのは、群れの序列の目上へ挑戦するという意味で、例えば、今までリーダーウォーク出来ていた愛犬が、この時期になると突然リードを引っ張って自分の行きたい方向へ行こうとしたり、飼い主より物理的に高い場所に登ってみたりします。
人間の子供でも反抗期には、親を困らせるような行動をとることがありますが、子犬においても全く同じような行動をとります。人間の子供と、子犬には、共通している部分も多いんですね。(*^^)v
<社会的成熟期>
社会的成熟期とは、性成熟(生後6 ~ 9ヶ月齢)~生涯のこと言います。
性成熟後、本当の意味での社会的成熟(心身共に成熟すること)を迎えるまでには、2歳~3歳くらいまで掛かります。
この頃は、まだまだ”キャピキャピ”としていて、落ち着きのない状態が続きます。
心の成長は、体の大きさによって異なり、一般的に体の小さい犬種は、比較的早く成熟するといわれております。逆に体の大きな犬種は、比較的心の成長が遅く、時間が掛かります。
つまり、子犬をご家族として迎え入れてから、数年間は愛犬を温かく見守りつつ、家族で統一した躾を根気よく行っていく必要があります。
この数年間の躾をしっかりと行うことで、たっぷりとある愛犬との残り時間はきっと素晴らしいものになうと思いますよ。