犬フィラリア症(犬糸状虫症)

犬フィラリア症は、フィラリア予防薬を投与することで完全に予防できる病気です。
フィラリア予防薬は動物病院などで入手することができますので、しっかりと予防しましょう。

ここでは犬フィラリア症の正しい知識を身に着けていただき、愛犬の健康維持のお役に立てれば幸いです。

フィラリア症(犬糸状虫症)は、人にも感染する可能性のある人畜共通感染症(動物由来感染症、人獣共通感染症、ズーノーシス、ZOONOSISとも言います)です。
※人の発症例は少なく、約100例程度が報告されているようです。

<犬フィラリア症の病原体>

犬フィラリア症の病原体は、「イヌフィラリア(犬糸状虫:Dirofilaria immitis)」という寄生虫です。
「イヌフィラリア(犬糸状虫)」は細長い糸状(まるでそうめんのような形状をしています)の虫で、平均体長は15cm~30cm(雄:約15cm、雌:約28cm)です。

<犬フィラリア症の感染経路>

犬フィラリア症の感染経路は、「イヌフィラリア」を保持する蚊に刺されることによる経皮感染です。
「イヌフィラリア(犬糸状虫)」を媒介する蚊には4属16種類(日本の場合)ありますが、一般的に「アカイエカ」と「ヒトスジシマカ」が知られています。

<犬フィラリア症を発症するまで>

犬フィラリア症を発症するまでには、いくつかのステージに分かれています。

ステージ 説明
ステージ1 蚊が「イヌフィラリア」の宿主(イヌ科の動物・犬・猫・タヌキ・キツネ・クマ・フェレット・人など16種類の動物に寄生します)を吸血すると、「イヌフィラリア」の「ミクロフィラリア(子虫)」を一緒に吸引します。

ミクロフィラリアは、蚊の体内で成長して脱皮を繰り返します。
蚊の体内で2回脱皮したミクロフィラリアは、新しい宿主へ感染する能力を持つ感染幼虫となります。
※ミクロフィラリアが脱皮する為には、適度な温度が必要となるため、冬の寒い時期には感染幼虫になることはありません。

ステージ2 「ミクロフィラリア(感染幼虫)」を保持する蚊が犬を刺すと、「ミクロフィラリア(感染幼虫)」が新たな宿主となる犬の体内に入り込みます。
※この段階では、まだ犬フィラリア症を発症しません。
ステージ3

犬の体内に入り込んだ「ミクロフィラリア(感染幼虫)」は、犬の皮膚の下・筋肉・脂肪などで約2か月間かけて2回の脱皮を繰り返します。

このステージでは、寄生場所(心臓や肺動脈)へ移動するための準備を行います。
※この段階までなら、フィラリア予防薬での予防が可能です。

ステージ4

寄生場所への移動準備が整った「イヌフィラリア」は、血管を通って心臓(右心室)や肺(肺動脈内)などに移動します。

この状態で、フィラリア予防薬を使用すると、死滅した「ミクロフィラリア」が原因となり、アレルギー反応やショック症状を引き起こすことがありますので、注意が必要です。

ステージ5

心臓(右心室)や肺(肺動脈内)に到着した「イヌフィラリア」は、さらに数ヶ月成長を続けて成熟虫となり、完全に寄生します。

寄生した成熟虫は、長い時間をかけて徐々に心臓や肺を傷つけていきます。
※心臓(右心室)や肺(肺動脈内)へ完全に寄生するまでには、約6ヶ月間かかります。

<犬フィラリア症の人の症状>

人の場合、肺に寄生することが多いようです。

人が感染してもほとんどが無症状のため気づきませんが、犬フィラリア症を発症した場合、咳・血痰(けったん)・呼吸困難・発熱・皮膚の肥厚・象皮膚病(まるで象のような皮膚になります)などの症状を引き起こします。

<犬フィラリア症の犬の症状>

犬の場合、心臓と肺動脈に寄生します。

主な症状は、血液の循環障害・乾いた咳・疲れやすい・元気がない・散歩を嫌がる・運動を嫌がる・食欲不振・肝臓肥大・腹水がたまる(お腹が膨らむ)・浮腫(むくむ)・肺動脈塞栓・栄養障害・抜け毛・毛つやが悪い・黄疸・赤色の尿・喀血(肺からの出血で血を吐き出す)などが見られます。

より多くのイヌフィラリアに寄生されている場合、血尿・貧血・呼吸困難の急性症状を引き起こし、最悪の場合死に至ります。

<犬フィラリア症の予防>

犬フィラリア症の予防には、フィラリア予防薬を毎月投与することで100%予防するができます。

フィラリア予防薬は、蚊が発生した1ヶ月後(通常4月~5月頃)~蚊がいなくなった1ヶ月後(通常11月~12月頃)まで毎月投与します。
※蚊の発生状況は地域によってことなりますので、投与する期間はかかりつけの獣医さんと相談して決めてください。

前述の通りステージ3までならフィラリア予防薬で駆虫することが可能です。

実は、毎月フィラリア予防薬を投与することは必須条件ではありませんが、万が一駆虫しきれなかった場合や、飲み忘れなどを防ぐ意味でも毎月必ず投与するようにしましょう。

<フィラリア予防薬の種類>

フィラリア予防薬を大きく分類すると次のようなものがあります。

  • 塗布薬(スポットタイプ:首の背側に滴下します)
  • 注射薬
  • 内服薬

一般的には、内服薬が主流になっております。

内服薬には、次のようなものがあります。

タイプ 説明
錠剤タイプ 飼い主が愛犬に錠剤を確実に与えることができる場合には、錠剤タイプが便利です。
粉末タイプ 粉末タイプは、ドッグフードやおやつに振りかけて与えることが出来ます。
チュアブルタイプ 最近登場したチュアブルタイプは、牛肉などを原料にしているため犬の嗜好性が高く、おやつ感覚で与えることが出来るため、錠剤タイプや粉末タイプが苦手な子にお勧めです。

フィラリア予防薬は、確実に投与することが重要です。
内服薬を使用した場合、薬を吐き出してしまうと効果がありませんので、確実に飲み込んだことを確認してください。

なお、最近年1回の投与で済むタイプのフィラリア予防薬が出てきましたが、一度に大量の薬を体内に入れることになるため、ショック症状やアレルギー反応の不安から、獣医さんによってはお勧めしない方もいらっしゃるようです。

<犬フィラリア症の治療>

犬フィラリア症の治療は、その子の体力や年齢・寄生虫の数を考慮して、慎重に行う必要があります。

体力があり、年齢の若い個体の場合は、駆虫薬の投与や外科的手術を行います。
ただし、駆虫薬を使用した場合、心臓や肺動脈内部で死滅した「イヌフィラリア(犬糸状虫)」が血管などに詰まることで症状を悪化させることがあります。

体力がなく場合や、老犬の場合には、症状に対する対処療法を行います。
自然に寄生数が減少することで症状が軽くなる場合もありますが、ほとんどのケースで症状がよくなることはありません。

【免責事項】

こちらにご紹介する病気名や、症状、治療方法などは一般的な情報をまとめたものですので、愛犬の病気が疑われる場合には速やかに獣医にご相談ください。

情報の正確性には十分注意しておりますが、ご紹介した内容で何らかの不利益が生じても当方としては責任を負いかねますのでご了承ください。