子犬を飼う(買う)ことを決めてから、子犬を選ぶ際に皆さんはどのような事を基準にしていますでしょうか?
わたくしがお客様からヒヤリングをすると、次のようなことを気にしている方が多いように思います。
- お顔が可愛いかどうか
- 好きな柄かどうか(柄のある犬種:シェルティー、シーズー、ボーダーコリー、パピヨン、チワワなど)
- 性別
- 毛の色
- 値段
- 体の大きさ(体重、体高)
- 飼い主との相性
- その子の性格
- 生年月日(月齢)
- 健康な子かどうか・・・など
確かにこのようなことも重要なのですが、子犬の価値を決定するにはこの外にももっと重要なことがあるのです。
○繁殖者の考え方やポリシーが重要な理由
最も重要なことは、繁殖者の考え方やポリシーです。
ここではあえて繁殖者としました。
なぜなら、一言に繁殖者と言ってもさまざまな方がいるからです。
例えば、下記。
- シリアス(serious:真剣な,本気の,まじめな,という意味)なブリーダー
- ブリーダー(よい犬を作出るためにある程度勉強している方)
- 繁殖屋(特別なポリシーもなく、なんとなく繁殖している方)
- パピーミル(繁殖工場) ・・・ など
シリアスなブリーダーとブリーダーが繁殖した子犬は、わたくしも購入したいと思いますが、繁殖屋とパピーミルはどうでしょうか?
たとえとても可愛らしい子犬であったとしても、わたくしはこの方からは絶対に子犬を購入しません。
なぜなら、繁殖に必要な最低限の知識もなく、販売目的のみで繁殖を行っていると思われるからです。
当然、出産時の母体への影響や、子犬の質(骨量、毛量、体の大きさ、遺伝性疾患、先天性疾患など)は考慮されず、母犬がヒート(交配できるタイミングのこと)の状態になると、毎回交配している可能性もあります。
もし、奇形の子犬が産まれても全く対応しないため、兄弟姉妹犬にも危険性(その子は健康であっても、次の代に奇形や遺伝性・先天性疾患がでる可能性もあります)が存在しているのです。
シリアスなブリーダーやブリーダーは、組み合わせを熟慮して交配しています。
例えば、
シェルティーやラフコリー、ダックスフンドなどの場合、犬種標準書(スタンダード)でもブルーマールやダップルという毛色(柄)が許容されていますが、この毛色の犬を作出する場合、交配の組み合わせが重要になります。
両親がブルーマールやダップルの場合、高い確率で死産や非常に短命に終わる奇形児が生まれる可能性があります。
これは、マール遺伝子によるものです。
マール遺伝子は、両親から2つのマール遺伝子を受け継ぐと先述のようなことが発生します。
したがって、マール遺伝子を持つ犬同士の交配はタブーであり、絶対に行うべきではありません。
シェルティーやラフコリーの場合は、トライカラーとブルーマールを交配するのが基本形です。セーブル&ホワイトとブルーマールでも交配できますが、セーブル&マールなどの毛色の子犬が産まれる(セーブル&マールは犬種標準書で認められておりません)ため、避けるべきでしょう。
ダックスフンドの場合、ブラックタンとダップル、チョコタンとダップルの交配が基本形だと言われております。
その他にも、次のようなことを考慮して交配しています。
- 犬種標準書(スタンダード)
- 生涯における出産の回数
- 前回の出産からの期間
- 骨格の構成の悪い親犬は交配に使用しない
- 無理な極小サイズの犬は作出しない
- 体の小さい母犬は使用しない
- 太っている親犬は使用しない
- 優秀な親犬のみを使用する
- 先天性疾患や遺伝性疾患の可能性のある親犬は使用しない ・・・ など
シリアスなブリーダーの中には一部のショーブリーダーも含まれます。
犬の形を崩さないためにも、インブリード(遺伝的に近い犬を交配すること)やラインブリード(犬の系統を受け継ぐ交配をすること)を行う場合があります。
この様な場合でも、極近親交配(遺伝子的に非常に近い犬同士を交配すること:親子の交配、兄弟姉妹犬同士の交配など)は避けて、十分熟慮して交配を行います。
同じショーブリーダーでも、犬の形のみを優先してインブリードを頻繁に行う方もいます。
確かに優秀な犬も産まれるのですが、奇形を持つ子犬(ほとんどが短命に終わります)が産まれたり、死産するケースも多いのが実情です。
つまり、どのような子犬が作出されるかは、繁殖者の考え方、ポリシーが大きく係わっているのです。
○犬種標準書(スタンダード)が重要な理由
犬種標準書(スタンダード)とは、歴代のブリーダーが犬種の健全性(理想の形)を維持するために取り決めたものです。
一般の方で子犬を選ぶ際に、「うちの子はペットだから(ドッグショーに出す訳ではないから)そこまで気にしないわ。」と仰る方がいますが、はたしてそれでよいでしょうか?
確かに、ブリーダーさんは、犬舎を維持するために一番出来の良い子犬は犬舎に残す為、本当に出来の良い子犬を一般の方が手に入れることは非常に困難です。
ただ、2番目、3番目に良い子犬は手に入れることは可能です。
ペット(家庭犬)として飼う場合でも、この2番目、3番目の子犬が狙い目です。
なぜなら、優秀で出来の良い子犬はその犬種として健全であるという意味なのです。
つまり、
犬種標準書(スタンダード)に忠実な犬=健全な犬
というようにも言えるのです。
といっても、生後間もない子犬では、よく判らないかもしれません。
その場合は、親犬を見せてもらうと良いでしょう。
出来の良い親犬の特徴は、その殆どが子犬にも引き継がれます。
なお、ブリーダーさんを見学しても、必ず両親を見ることができるとは限りません。
片親(特に父犬)が外部の犬舎さんの犬の場合は、見ることができないかもしれません。
また、産後で母犬を見ることができない場合もありますが、写真を見せてもらうなど工夫してみると良いでしょう。
○母犬の生涯における出産回数と前回の出産からの期間について
母犬にとって、出産が母体に大きな負担となります。
出産をすると体重が大きく減り、やせ細ってガリガリになったり、被毛も抜け落ちてボロボロになることも多いのです。
この様に大きな負担となる出産をヒートの度に毎回繰り返した場合、どうなるでしょうか?
当然、母体の負担が子犬に跳ね返ってきます。
子犬の骨量が減ったり、骨格の構成が崩れたり、良い事は一つもありません。
そういった意味でも、生涯における出産の回数や、前回の出産からの期間はとても重要な事なのです。
○骨量と骨格の構成について
骨格の構成!?って何だろう?と思うかもしれませんが、とても重要なことです。
例えば、人間でも偏平足な人がいると思います。
一般的に、偏平足な人は歩くと疲れやすいと言われています。
犬の場合もこれと同じようなことが言えるのです。
骨量が多く、骨格の構成が綺麗な犬は、歩き方(走り方)が綺麗なので、体への負担が少なくなり、老犬になってからも元気に歩いたり、走ったりすることができるのです。(骨格に係わる病気は、生活環境も影響する為、生涯の健康を保証することはできません。)
また、内臓も強く、内臓の病気になるリスクも減らせると言われています。
例えば、レトリーバー(ラブラドール、ゴールデン、フラットコーテッド)は、一般的に後肢が弱い(後肢のトラブルが多い)犬種だと言われております。
(一番弱いのがフラットコーテッドレトリーバーで、次にゴールデンレトリーバー、最後にラブラドールレトリーバーだと言われております。)
ここで重要なのが、骨量と骨格の構成です。
骨量が多く、骨格の構成が綺麗なレトリーバー、後肢のトラブルのリスクを軽減できることが分かっています。
レトリーバーの子犬を選ぶ場合、たとえ子犬が高額ても、骨量が多く、骨格の構成が綺麗で、後肢が発達している犬を選ぶべきでしょう。
安価なレトリーバーの子犬は、このようなことに注意が払われておらず、後肢が弱い犬(すべての犬が必ず弱いという意味ではありません。)が多いのです。
後肢のトラブルが多いレトリーバーは、最終的に治療費や病院代などで高額になることが多く、大型犬の為、介護にかかる飼い主の負担は非常に大きなものになります。
○極小サイズについて
ティーカッププードルや、豆柴など、犬種標準書(スタンダード)で許容されていない犬種(犬種としても認められていません)がいますが、このような犬は選ぶべきではないでしょう。
この様な犬は、意図して体の大きさを小さくするように繁殖が行われています。
そのような無理なブリーディングは、骨量が少なくなり、骨格の構成も崩れてしまいます。
その結果として、内臓疾患を患っているケースが多く、極小サイズの殆どの犬が短命に終わります。
つまり、極小サイズの犬は、不健全な犬なのです。
もし、どうしても体の大きさが小さい犬を手に入れたい場合は、どうしたら良いでしょうか?
1回の出産の中でも、一番最後に産まれた子犬はやや小ぶりなサイズで産まれることがありますので、その子犬が狙い目です。
この場合でも、あまりにも小さく産まれてしまうとうまく育たずに生後1週間未満でなくなってしまうこともありますが、1週間を過ぎると殆どの犬が生き延びます。(ブリーダーの中では生後1週間の壁と言われています。)
この事は自然の摂理ですので、どうしようもない事なのです。(犬が多産なのはこのためだと言われています。)
○その他注意すること
その他に注意することには、次のようなことがあります。
- 鼠径ヘルニアの有無
- 噛み合わせの異常
- ペコ ・・・ など
鼠径ヘルニアとは、ももの付け根(鼠径部)に腸などが飛び出すことを言います。
子犬の鼠径ヘルニアは、ごく小さなものの場合、成長すると塞がってしまうこともありますが、大きなものは外科的な手術が必要になります。
噛み合わせの異常は、上の歯が下の歯より前へ出てしまうことを「オーバーショット(またはオーバー)」と言います。
逆に下の歯が上の歯より前へ出てしまうことを「アンダーショット(またはアンダー)」と言います。
一部の犬種を除き、ドッグショーに出展する場合は減点されてしまいます。
重度の噛み合わせ異常(エサをうまく食べることができないなど)の場合は問題となりますが、軽度の場合で家庭犬として生活する分には、あまり影響がありません。
ペコとは、出産時の図骸骨の隙間が塞がらずに残ってしまうことを言います。
頭頂部などを指で押すとペコンと押すことができ、ブヨブヨとしているので、ペコと言われているようです(諸説あります)。
超小型犬に多く見られます。
特にチワワの場合、80%の犬に見られると言われております。
ペコのある犬は頭への衝撃が直接脳へ伝わってしまう為、注意が必要です。
脳への衝撃により水頭症を発症することもあります。
○日本特有の販売方法の危険性
皆さんはどこで子犬を購入しますか?
展示陳列販売を行うペットショップ(路面店)でしょうか?
それとも量販店(ホームセンターなど)で展示陳列されている子犬でしょうか?
日本では、子犬の多くがこれらのお店で販売されています。
中には優良なお店もあるとは思いますが、そうは多くありません。
では、これらのお店で子犬が産まれた環境や、親犬の特徴、繁殖者についてなどを質問してみてください。
答えられるお店はどれくらいあるでしょうか?
そう多くはないと思いますよ。
これらの質問は前述の通り、とても重要なことなのに・・・
あと、これらのお店の多くでは、劣悪な環境のペット市場(生体オークション)を通して、子犬を仕入れています。
一部のブリーダーさんは、優秀な子犬は自分で直接お客様へ販売して、やや劣る子犬をペット市場に卸しているようです。
ブリーダーさんもご自身の犬舎を維持していくためにはお金が必要ですので、どうしようもない事です。
さらに、不特定の繁殖者から集められた子犬が1つの店舗に集められて展示されているのですから、常に感染症のリスクが付きまといます。
実はとても不衛生な場合が多いのです。
欧米では、子犬はブリーダーから直接購入することが一般的です。
子犬の展示陳列販売は、不衛生で、且つ、動物虐待に繋がると考えているからです。
つまり、日本特有の展示陳列販売により、一般の方は質の悪い子犬を買わされているのです。