狂犬病は人畜共通感染症です。発症すると治療方法はなく、100%死亡する非常に恐ろしい病気です。
この病気の病原体は、ラブドウイルス(Rhabdoviridae)科のリッサウイルス(Lyssabirus)属、狂犬病ウイルス(Rabies virus)です。このウイルスは、砲弾型をしており、大きさは185nm×75nmです。感染すると、宿主の脳や唾液腺で増殖して唾液にウイルスが排泄されます。
狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染した動物に噛まれることで感染します。この病気は、犬だけでなく全ての哺乳類に感染します。
日本国内では、人は昭和31年(1956年)、動物(猫)では昭和32年(1957年)を最後に発生しておりませんが、2006年にフィリピンで犬に噛まれた日本人が帰国後に発症した例が報告されております。
1953年 | 1954年 | 1955年 | 1956年 | 1970年 | 2006年 | |
人の死亡数 | 3人 | 1人 | 0人 | 1人 | 1人 (※1) | 2人 (※2) |
犬の発症数 | 176頭 | 98頭 | 23頭 | 6頭 | 0頭 | 0頭 |
※1 ネパール旅行中に感染(犬に噛まれた)、帰国後発病して死亡した
※2 フィリピン旅行中に感染(犬に噛まれた)、帰国後発病して死亡した
<厚生労働省ホームページより引用、改変>
日本、オーストラリア、イギリス、ノルウェー、スウェーデンなどの一部の国を除き、海外では多くの国で狂犬病が発生しており、この病気が原因で毎年多くの方が亡くなっております。旅行などで海外へ行った際には、動物には触らないようにすることが感染を予防する意味で重要なことになります。
海外で動物に噛まれた場合には、できるだけ早く医師に相談するようにしてください。
アフリカ | 南北 アメリカ |
アジア | ヨーロッパ | オセアニア | ||
家畜 | 犬 | 957 | 3,778 | 5,376 | 601 | 0 |
猫 | 88 | 515 | 105 | 420 | 0 | |
反芻獣 | 426 | 1,778 | 345 | 583 | 0 | |
馬 | 70 | 53 | 14 | 24 | 0 | |
その他 | 14 | 271 | 27 | 18 | 0 | |
野生動物 | キツネ | 4 | 448 | 67 | 3,036 | 0 |
スカンク | 2,040 | 0 | ||||
アライグマ | 4,300 | 0 | ||||
マングース | 1 | 76 | 5 | 0 | ||
コウモリ | 961 | 29 | 0 | |||
その他 | 254 | 67 | 374 | 0 |
<家庭動物販売士テキストより引用、改変>
◎人間の症状
狂犬病ウイルスに感染している動物に噛まれることにより感染します。
潜伏期間は1ヶ月~3ヶ月程度ですが、短い場合は10日くらいで発症します。噛まれた際の傷口の多いさや深さ、咬まれた場所(噛まれた場所が脳から遠いほど発症が遅くなる傾向にあるようです。)、感染したウイルスの量によっても、潜伏期間が異なります。
狂犬病ウイルスは、神経系を介して1日に数ミリから数十ミリ程度進行していきます。狂犬病ウイルスが脳神経組織に到達することで発症します。
発症すると2日~6日程度でほぼ100%死に至ります。
人が狂犬病が発症すると、次のような段階を経て病気が進行していきます。
前駆期 → 急性神経症状期(急性期、興奮期) → 昏睡期(麻痺期)
<前駆期>
前駆期とは、発症後の1日~2日間のことをいいます。
不安感や頭痛などの風邪に似た症状が表れたり、噛まれた箇所にかゆみや発熱を伴うこともあります。
<急性神経症状期(急性期、興奮期)>
急性神経症状期(急性期、興奮期)とは、発症後2日~7日間のことを言います。
不安感、恐水症状(水などの液体を見たり、飲み込もうとすると、喉の筋肉に強い痛みを伴う痙攣症状が見られるようになります。水を極端に恐れるようになる為、この名前が付けられました。)、恐風症(風に対して過敏になり、恐れたり避けるような仕草を示します。)、興奮性、麻痺、幻覚、精神錯乱などの神経症状が表れます。また、腱反射、瞳孔反射の亢進(日光に過敏に反応するため、これを避けるようになる)もみられるようになります。
<昏睡期(麻痺期)>
昏睡期になると、脳神経がウイルスに完全に侵されてしまい昏睡状態に陥ります。全身の筋肉に麻痺症状を引き起こし、呼吸障害によって死亡します。
◎動物の症状
動物(犬)の場合の潜伏期間は、2週間~2ヶ月程度です。人間の場合と同様に噛まれた場所や、感染したウイルスの量などによって潜伏期間が異なります。
発症後の病気の進行過程は、動物の場合もほぼ人間と同じですが、次のような段階で病気が進行していきます。
前駆期 → 狂躁期 → 麻痺期
※狂躁期と麻痺期を明確に分けることは困難な場合があり、前駆期から麻痺期に直接移行する場合もあります
<前駆期>
前駆期では、飼い主に対して異常に甘えるなどの性格の変化や、暗い所に隠れたり、異常に騒いだり、異嗜(食べ物ではないものを食べたり飲みこんだりすることです。)などの異常行動が見られるようになります。
<狂躁期>
狂躁期では、急に攻撃的になったり、よだれを垂れ流したり、嫌悪な表情となったりします。
また、興奮状態となり、無意味に徘徊したり、目に入るものに噛みついたりする行動が表れることがありあす。
さらに、光や音などの刺激に対して、過剰に反応するようになります。
<麻痺期>
麻痺期では、全身に麻痺症状が表れるようになります。
麻痺により歩行ができなくなったり、物を飲み込むことができなくなったりします。
最終的には、昏睡状態に陥り、死亡します。
<参考文献:家庭動物販売士テキスト、厚生労働省ホームページ、Wikipedia>